『25年は米国以外の投資先が注目』
24年の世界の株式市場では米国市場の独り勝ちとなった。年間のS&P500の騰落率は25.11%(27日現在)、前年の23年も24.3%の上昇だったため、2年連続で20%以上の上昇となった。さすがに25年の上げ幅は縮小するとの見方が大勢のようだ。(文責 太田)
目 次
1、2025年の干支は乙巳(きのと・み)
2、金融市場にとっての巳年
3、まだ市場に織り込めていないトランプ政策
4、トランプ政策の見極めの1月
5、米国株式市場での極端な集中
6、25年の円相場
7、25年は米国株以外の投資が注目される
2025年の干支は乙巳(きのと・み)
毎年1月号は前年、前々年の1月号レポートを読み返している。23年1月号では、専門家の予想は当たらないとし、その理由として、彼らの予想はすでに発表されている経済指標や事象などをもとにしており、それは株価にすでにある程度織り込まれていると言及している。同時に、この時のレポートで、日経平均は24年から25年にかけ4万円を予想している。22年大納会は日経平均22,094円で終えており、23年1月当時はまだ「失われた30年」が幅を利かせており、株式市場への超強気な発言は比較的少なかった。
24年の1月号は、干支から入っている。24年の干支は、甲辰(きのえたつ)。干支とは文字でわかるように、10年周期の十干(じっかん)と12年周期の十二支の組み合わせで表される。辰は十二支で唯一の架空の動物で「雄々しく天に上る趨勢」を意味する。24年は株式市場にとってはこの上ない縁起が良かったのだ。ただし、辰(たつ)年の次は巳(み)年だ。今年は巳年。相場では辰巳(たつみ)天井とも言うため、嫌がる相場関係者も多い。
干支(えと)では、25年は「乙巳(きのと・み)」だ。「乙」は十干の2番目の干で、「乙」の古代文字は、草木の芽が曲がりくねっている姿や乙形の骨ベラで糸の乱れを解く道具の象形文字とみられる。もともと「軋(アツ、きしる)を語源としており、草木の幼芽が外の寒気が強く、いまだ自由に伸長し得ないで、屈曲している状態を表すとされる。新しい改革や創造を進めるが、抵抗勢力や障害が大きく伸び切れない状態を表す。
「巳」は十二支の6番目で、動物では「蛇」が充てられている。今まで冬眠していた「蛇」が春になって地表に這(は)い出す姿とされ、いろいろな人物や問題が表面化することを意味する。一方、「蛇」は再生や成長の象徴でもある。
前年の24年に生まれた勢力と言えば、日本では石破茂首相、米国では大統領選に当選したトランプ次期大統領、英国では労働党のスターマー首相などが挙げられるが、今の状況から判断すると、それぞれ25年は正念場と言えそうだ。
金融市場にとっての巳年
金融市場も、巳年は相場の節目となっていることが多い。日経平均が年末にバブル期の最高値を更新した89年もそうだったが、株価は翌年には急落、日本経済も長い停滞に陥った。2024年に日経平均株価は89年の最高値を更新、7月には4万2224円の史上最高値をつけたが、干支からは、「天井」との見方もできる。
また巳年の歴史を振り返ると、2013年アベノミクス元年、2001年同時多発テロ、1989年昭和天皇崩御と株バブル、1965年証券不況、1953年朝鮮戦争休戦と、マーケットへの影響も大きかった歴史的節目が並ぶ。史上最高値近辺での年始スタートとなる2025年、日本経済のデフレ完全脱却や日経平均4万円台の定着を望みたい。
まだ市場に織り込めていないトランプ政策
1月20日にトランプ第2次政権が始まる。日経新聞の某論説主幹はトランプ氏のことを第1次政権時からプロレス大統領と称している。プロレスの①敵役をはっきりさせ声高に罵る②反則は5カウントまで許される③場外乱闘も辞さないーなどの点がトランプ氏の政治手法に似ているからだとしている。まさしく、その通りであり、今回も大統領選直後からの発言も、例えば、関税引き上げ、不法移民の強制送還、減税と言った発言があった。
しかし、これらの政策はインフレを招くといった懸念の声が大きいが、トランプ氏の発言を額面通りには受け取るべきではないという声も多い。つまり金融市場はトランプ氏の発言をほとんど織り込んではいないとみたほうがよさそうだ。1月20日以降の同氏の発言に対しても、取引のための手段と市場は考えるであろう。そのため簡単には市場に織り込めないのではないだろうか。なんとも厄介な大統領ということになる。
トランプ政策の見極めの1月
2025年の米国株式市場を、主要な米金融機関は、着実な経済成長と金利低下の追い風を受けて上昇すると予想しているが、さすがに2年連続で20%以上上昇した後だけに、S&P 500 も6500から6600くらい、つまり足元の株価から10%程度の上昇を見込んでいる金融機関がほとんどだ。米国市場でもトランプ政策には期待と懸念が入り交じっている。予想される政策転換は概ね米国株式市場にはポジティブだが、世界の反応次第では、米国株式市場にも影響は及ぶはずだ。
そして、米国株の勢いが25年にどれだけ続くかは、複数の要因に左右される。1月10日には米雇用統計が発表され、米経済の状態を判断する材料となる。さらに、米企業が第4・四半期決算の発表を本格化させると、市場の強さが試されることになる。
1月20日のトランプ大統領就任も市場に変化球を投げかける可能性がある。トランプ氏は就任初日に移民政策からエネルギー政策、仮想通貨(暗号資産)政策まで幅広い問題に関して、少なくとも25の大統領令を発表すると予想されている。
中国製品への関税引き上げや、メキシコとカナダへの関税賦課、移民の取り締まり強化を警告。企業にとってコストが上昇し、最終的に消費者に転嫁される可能性がある。トランプ政権で予想される貿易政策の影響は、世界の為替市場にまだ完全には織り込まれていない可能性が高い。したがって、提案された政策のうちどれが実際に施行されるのか、どれがまだ先のことなのかを見極めたいというのが、市場参加者の本音だろう。
1月20日の大統領就任式後の28~29日に今年最初のFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。米国株には試練となる可能性がある。2024年12月17─18日に開催したFOMCでは政策金利の誘導目標を0.25%ポイント引き下げ、4.25─4.50%とした。同時に公表した金利・経済見通しでは25年の利下げ回数が2回と想定され、前回24年9月見通しの4回から半減。利下げペースが鈍化する可能性が示唆され、株価の急落を招いている。
米国株式市場での極端な集中
米大手投資家は、先行きに不安な気持ちを抱えて来年を迎えようとしている。世界経済は今のところハードランディングを回避しており、米国株は3年連続で上昇率する軌道にある。一方で運用担当者が心配する理由としては、トランプ氏の復帰や根強いインフレ懸念が挙げられる。だが最大のリスクは、個人投資家の米国株依存姿勢ではないだろうか。
2年にわたり高いリターンを生み出した米国株はさらに強さが増している。MSCIオールカントリー世界株指数における米国のウエートは現在67%で、次に大きい日本は5%弱に過ぎない。10年前、同世界株指数で米国のウエートは約50%だったのだ。米国株が他の地域の株をアウトパフォームすることで世界の主要指数におけるウエートが自然と高まり、ウエートが高くなった。
米国株式市場の最大の懸念は極端な集中という問題。S&P500の時価総額をみると、上位ハイテク株10銘柄が全体の約35%を占めている。この比率は「ニフティ・フィフティ」と呼ばれた一握りの大型優良銘柄に投資が集まった1970年代以降で最大に達する。それによって、米国市場は、ごく一部の好調な企業に命運を左右される状況に置かれている。
そうした米国株の強さは多くの大手投資家にとってジレンマをもたらしている。プロの資産運用担当者のほとんどは、分散投資を好む。運用資金をさまざまな地域や資産クラスに分散させることで、突然の値下がりに伴うリスクを減らし、より長期の持続的なリターンを確保できる。足元で米国株が調整、または暴落したらMSCI のオールカントリー世界株は大きなダメージを受けることになる。
したがって、グローバル運用を行っているファンドは、米国(の配分比率)が大きくなり過ぎないよう注力し始めるだろう。だが、米巨大ハイテク企業が人工知能(AI)ブームのけん引役という地位を築いた今、それに逆らうポジションを築くには相当な勇気が必要だろう。
25年の円相場
国内外の金融機関の25年円相場の予想を見ていると、1ドル140~150円台が大勢を占めている。総じて米国経済にトランプ政策が影響を与え始めるのは年後半、前半の米経済は鈍化するとの見方が多く、年末138円を予想しているのはモルガンスタンレー。ほとんどの金融機関は概ね日米の金利差は縮まりにくいと想定している。金利差が縮まらず、実需のデジタル赤字が減少しなければ簡単には円安の構造は変わらないだろう。それでは、将来的な円水準を左右するのは何か?
短期的には金利差がドルに対する円の価値を左右する主要な決定要因である。一方、長期的には、円の購買力は、日本における生産性の伸びや、他国と比較した場合のインフレ率、国際収支の数字など、経済のファンダメンタルズに左右される。これらが改善しない限り、円安はかなり続くだろう。日米の10年国債金利差がある場合、20年前に比べて現在の円/ドルはかなりの円安になっている。今日の金利差3.5%程度では、20年前の円の価値は通常121円程度だった。同じ金利差であれば、現在の予想値は146円程度である。
現在の実際取引されている円は157円近辺である。要するに、金利差が縮小しても、円は20年前の価値を取り戻せないということだ。円安によって日本経済が低迷し、日本の輸出企業の競争力が低下しているからだ。本来、円安は日本の家計を犠牲にして輸出企業に利益をもたらす。金融政策でこの問題を解決することはほぼ不可能だ。前述した様に日本の生産性の伸びが期待されるまでは構造的な円安は持続するだろう。とは言っても、160円を付けたころは円の「キャリートレード」が盛んであった。今それは他の低金利通貨、例えばスイスフランなどに移っている。したがって、160円を超していく円安は難しいと思っている。
25年は米国株以外の投資が注目される
日本株に関して中長期目標の海外投資家は、「買い」のタイミングを計っていると想像できる。前述した様に「米国株1強」からの分散に備えたアセットアロケーション(資産配分)の変更に伴う日本株への投資だ。2024年の米国の上場投資信託(ETF)への資金流入は11月末時点で1兆ドル(150兆円)をこえ、年間では過去最大になっている。トランプ政策による減税や規制緩和で米経済の活性化を期待した買いで最高値圏にある。
当然、株価指標は過去最高水準まで上昇している。S&P500 のPER(株価収益率)は23倍と過去20年で最も高い水準にある、PBR(株価純資産倍率)も5倍以上と2000年のITバブル期のピークを上回っている。ちなみに日経平均のPER は15倍をやっと上回ってきており、PBRは1.4倍台だ。
25年は米国以外への投資が主要テーマだ。その受け皿の有力候補が日本株のようだ。米国株1強が崩れた場合、インフレ率が相対的に低い日本が優位になるはずだ。欧州や中国株に比べ、国内景気とインフレ率の好循環が日本株選好理由になる。
最近よく見かけるコメントだが、ここで引用させてもらう。そのコメントは、2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公まひろ(紫式部)の「道長さま、嵐が来るわ」の言葉で終ったが、これから始まる2025年の米国を指すような印象を受けた。トランプ2.0の米国経済及び株式市場がどうなるのか、日本の投資家は固唾を飲んで2025年の1月20日を待っている。
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■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。
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