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Monthly Report

Monthly Report 2023年12月号

『日米株式市場と円ドル相場の23年締め括り』

今年も残すところ1か月となった。11月20 日に日経平均は一時 33,853 円まで上昇し、33 年 8 カ月ぶり高値を更新した。筆者は11月号で、「11月には、日経平均は一時3万円割れ」との見通しを書いたが、それは見事に外れたわけだ。(12月1日 文責太田)

目 次
1、10月下旬、日経平均は200日移動平均に急接近
2、先進国市場の年初来高値からの乖離
3、米株価を支えた債券市場の心理好転
4、早期の米利下げを期待する今の市場は先走り状態
5、来年の日経平均の予想レンジは3万2000円-4万円
6、3つの強気要因
7、来年はドル安という見方が主流だが
8、日銀のマイナス金利解除の実施は来年中ムリ
9、米大統領選挙でドル高という見方も

10月下旬、日経平均は200日移動平均に急接近

11月号でも述べたが日本株の安値4年周期では、現在安値を付ける4年目に近いところにいる。11月号は10月30日に書いていた。この日の日経平均30,538円の場中の安値を起点として11月は上昇した。しかし、11月号執筆時点では、30日の日経平均終値は30,696.96円、200日移動平均はそのすぐ下の30,335円。当時の米金利状況からも200日移動平均を割るのは確実と思われた。
移動平均線とは、一定期間の株価(終値)から平均値を計算、日足では5日、25日、75日などがある。これらの移動平均線は、短期間における売買のタイミングを分析するのに役立つ。一方、200日移動平均線は、計算期間がおよそ1年間の長期の移動平均線。株式投資の市場参加者が買った株価の1年間の平均値を表しており、長期的なトレンドを分析するために、機関投資家などのプロも活用している。したがって、200日移動平均を割ったら中長期的に調整入りとみていたのだ。
改めて、この1カ月を振り返ると、10月26日の日経平均は668円安の3万0601円78銭だった。市場には、底抜けのリスクが高まり、この日の移動平均乖離率は25日移動平均が-3.47%、つまり株価は移動平均の下にあった。75日のそれは-5.04%で短期的な「陰の極」(相場用語でこれ以上下げようがない水準)がすぐそこに待っていたのだ。わずか200日移動平均だけがプラスの1.03%だった。そして、前述したように10月30日を境に、11月になって一気の約3000円近く上げた。

先進国市場の年初来高値からの乖離

年初からの11カ月を見ると、NYダウの年初来高値は3万5630.68ドル(8月1日)だが、11月28日時点では3万5416.98ドルで、年初来高値まで213.70ドル(0.60%)となる。次にS&P500種指数の年初来高値は4588.96(7月31日)、11月28日4554.89、年初来高値まで34.07(0.75%)。最後にナスダック総合指数の年初来高値は1万4358.01(7月19日)、11月28日1万4281.76、年初来高値まで76.25(0.53%)となる。すべて指呼の間の距離ということになる。
では、欧州はどうか。まず英国のFTSE100の年初来高値は8014.31(2月20日)、11月28日7455.24、年初来高値まで559.07(7.50%)。独DAXの年初来高値は1万6469.75(7月28日)、11月28日1万5992.67、年初来高値まで477.08(2.98%、なお29日に急上昇、高値まで303.3まで迫った、1.87%)。仏CAC40の年初来高値は7577.00、11月28日7250.13、年初来高値まで326.87(4.51%)と、米国株に比べると高値との乖離が大きい。
さらに日本はどうか。日経平均株価の年初来高値は3万3753.33円(7月3日)、11月28日3万3408.39円、年初来高値まで344.94円と(1.03%)と、米国に比べると、まだ出遅れ気味。
すっかり強気を取り戻し高値更新に迫る米国株。このままさらに上昇すると見ていいのだろうか。米S&P500種指数は約3カ月にわたって下値模索が続いたが、この時の株安となった最大の要因は、長期金利(10年国債金利)が一時5%まで大きく上昇するなど、債券市場の不安定な値動きにあった。

米株価を支えた債券市場の心理好転

夏場以降の米長期金利上昇は、その根拠は確かではなく、「売りが売りを呼ぶ」という悲観に陥っているように見えたが、足元では落ち着きを見せ始めている。足元の落ち着きは、11月初旬のFOMC(連邦公開市場委員会)や国債発行計画発表などを経て、債券市場の極度の悲観心理が後退したからだと思っている。同時に米国株市場は11月初旬から急反発して、11月24日時点ではほぼ3カ月前の水準まで戻った。10年債利回りも、9月以来の水準4.3%台まで低下。
米国経済は、経済成長が途切れず、高インフレが少しずつ落ち着く状況が、2023年前半から続いている。特にコアインフレ(エネルギー、食料を除く)は、夏場には3%台前半まで低下していた。それにも関わらず、FRB(連邦準備制度理事会)の多くのメンバーは「追加利上げが必要」と発言していた。実際には、FRBの経済やインフレに対する判断・認識への疑念で、10月まで主に債券市場では悲観心理が強まり売られた(金利上昇)のだろう。
11月のFOMC をキッカケに債券市場の市場心理は変わった。多くのエコノミストは7月会合が最後の利上げと想定していたが、11月になってようやく、債券市場ではこの見方がコンセンサスとなり、FRBによる追加利上げ期待は、ほぼ消失したのだ。
では、このまま株式市場の反発は続くのだろうか。今、FRBの政策対応に対する市場の悲観心理が、楽観方向に傾きつつある。市場では「早ければ2024年3月にもFRBが利下げに転じる」との期待を、株価は早々に織り込みつつある

早期の米利下げを期待する今の市場は先走り状態

2024年春にも早ければ利下げを期待している今の金融市場の認識は、先走りすぎではないかと懸念している。実際に、FRBが早期利下げを検討し始めるのは、インフレの趨勢が2%台に落ち着くとの認識が強まる状況になってからだ。したがって、その時期は、早くて2024年の春ではなく秋口ではないかと筆者は予想している。
市場のFRBに対する思惑が、楽観方向に傾きすぎているとすれば、年末にむけて一段高を期待させる株式市場についても、早晩息切れしてもおかしくない。前述したように年初来高値に最も迫っているのは米国株だ。調整があるとすれば(あるだろう)、最も早く深いのは米国株だろ。米企業の業績予想(1年先の利益)の改善は緩やかにとどまっており、株式市場は既に将来の業績改善のかなりの部分を織り込みつつあるようにみえる。


来年の日経平均の予想レンジは3万2000円-4万円

一方、今年は日本株の強さが目立った1年だった。まだ来年の日本株を想定するのは時期尚早だが、経済専門誌などの専門家の来年の予想は大体今頃が最初の締め切りにあたる。彼らに合わせて筆者の来年の日本株の予想を出してみると、日経平均の年間のレンジは3万2000─4万円と、史上最高値の更新もあり得ると考えている。レンジ幅がやや大きいのは円の方向性に不透明感が来年も続くと考えているため。しかし、米金利低下を主因とするドル安・円高の向かい風が想定されるものの、日本企業はこのところの値上げカルチャーの浸透による利益率改善効果を発揮しており、このトレンドは24年、25年も続くのがメインシナリオ。なお、安値は来年3月、またはそれ以前と想定している。

3つの強気要因

強気の要因は3つある。第1の要因は、日本企業の増益基調はデフレ脱却に向けて強さを増していることにある。7-9月の企業営業利益率は過去最高となっている。また、日銀が公表している企業物価指数をみると、輸入物価は22年9月のピークから23年10月までに10%以上下げている。国内企業物価はこの間2.1%上昇。つまり輸入物価の低下に対し、国内で値下げをしていないことを意味する。
従来、日本企業は値上げに消極的だった。欧米企業に比べシェア重視の傾向が強いことに加え、「お客様は神様」という日本の独特な経営哲学が「値上げ=顧客の負担増=悪」という意識につながった面も否定できない。しかし、将来にわたって質の高い製品・サービスの供給を続けるためには、適正な利潤を得ることが必要である、という意識が今企業間に広がりつつある。 
第2の要因は、東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」、東証が3月に行った「PBR1倍割れ」回避の要請が、いい意味での副産物をもたらしている。政策保有株の売却の加速だ。政策保有株とは、企業が純粋な投資ではなく、取引先との関係維持や買収防衛といった経営戦略上の目的で保有している株式。1960年代ごろから広まった日本特有の仕組みで、株式を相互に保有しあう「株式持ち合い」の形が多い。資産の有効活用を妨げるほか、「モノいわぬ株主」が存在することで企業統治(コーポレートガバナンス)の形骸化を招く弊害もあり、海外投資家を中心に批判を浴びてきた。
事業法人の現物株の売却額は今年度上半期(4─9月)の累計で4.8兆円と、過去5年平均の3.2兆円をちょうど50%上回るという「超ハイペース」で売り越している。従来、相手企業に対して言い出しにくかった政策保有株(持ち合い株)の売却は、東証の「要請」という外圧を言い訳に急激に動き出したのだろう。
第3に、アジアでのリスク分散先としての日本株の魅力である。欧米やアジアの長期投資家の中では、日本経済が「失われた30年」を脱しつつあるとの評価が高まっている。同時に「中国が日本型の長期デフレに陥るのではないか」という警戒感だ。単純化して言えば、90年以降「日本は負け組」、このころから経済発展が目覚ましくなった「中国は勝ち組」、この構図が逆転するという見方が台頭してきている。

来年はドル安という見方が主流だが

11月13日、円は151.92円と今年の安値を付け、昨年10月に付けた90年7月以来の円安値151.94円に迫ったが、反転し一時146円台の円高となった。今回のドル下落、円高は、米長期金利が低下したことが背景にあるが、そもそも長期金利が低下した理由は前述したように11月初旬のFOMC 以外にも2つあったと捉えている。
第1に、11月14日に公表された米10月のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回ったことが挙げられよう。この日は1日で約6円ものドル安・円高が進行した。第2に、米議会で新たなつなぎ予算が可決し、11月17日にはバイデン大統領が法案に署名、米政府機関の閉鎖をひとまず回避したことも、米長期金利の低下につながったようだ。
11月半ばころからドル円の見通しについては、ドル高はそろそろピークアウトし、米国の景気減速に伴い来年はドル安・円高になるとの見方が主流になってきている。来年ドル安との見方は多いが、米国の利下げまでにまだ時間がかかると想定すれば、しばらくは基調として円安ドル高が続くとの見方も多い。来年の日米金利政策のタイミングを考えるとドル円相場については、レンジ幅は大きくなり120円から140円までの幅になるだろう。130円を割れるような極端な円高になるには、日銀による早期のマイナス金利解除という要因が大きなインパクトを伴う必要がある。

日銀のマイナス金利解除の実施は来年中ムリ

日本側から見て、日銀によるマイナス金利政策の解除が来年中に実施される可能性は低いと思われる。理由は、その1、輸入物価上昇によるコストプッシュ型のインフレのことで、これが足元は予想以上に長引いているものの、早晩落ち着いていくとみているようだ。その2は、「国内の賃金と物価が好循環で回っていく」すなわちホームメイドインフレであり、植田総裁はこれが2025ー26年に現れることを示唆している。
したがって、マイナス金利政策の解除について、25年の初頭になると予想している。市場の予想は24年中に解除が主流のようだ。したがって、解除が遅れれば、来年のどこかで失望感から一時的に円安が進む公算が大きい。しかし、これまでドル高をけん引してきた米国経済の変化に対するドル相場への影響は大きいはずで、来年米金利利下げが開始される兆候が見られるころには、ドル安・円高が進行すると予想している。

米大統領選挙でドル高という見方も

ドル高持続への懸念は続く。特に24年は政治的にも不確実性が非常に高いことだ。2024年は歴史に類をみない選挙イヤーとなっており、世界で76もの国と地域で国政選挙が行われる。実に、世界の人口の約半分が何らかの形で国政選挙の投票をすることになる。今年、米下院の混乱にみられたように、米国内での分断も懸念材料の一つであり、英国も景気は最悪の状態で選挙を迎えることになる。グローバルサウスで重要度が高まるインドに加え、台湾の総統選挙やロシアの大統領選も控える。こうした環境において、相場が不安定感を増す可能性は高く、為替も思わぬ大相場となる可能性がある点には注意したいところだ。
特に米大統領選は現状不透明感が強く、為替相場の見通しも結論はむずかしい。JPモルガンチェースが27日のリポートで、保護主義者のトランプ氏が共和党指名候補者の間で圧倒的なリードを保っていることを踏まえれば、潜在的な貿易関税が通貨に及ぼす影響に投資家は注目するべきだと指摘。「関税リスクの再燃はドルにプラスになる」と記した。
選挙はまだ約1年先だが、「現在の世論調査結果が続けば」バイデン氏とトランプ氏の対決になる可能性が高いとJPモルガンは記述。バイデン氏政権では、前任のトランプ氏から引き継いだ関税は「ほぼそのまま残っている」とも指摘した。その上で、米国の関税が将来的に欧州やメキシコ、広範なアジアなど中国以外の国や貿易圏に拡大すれば、ドル高方向に極めて大きな影響をもたらすだろうと分析した。来年の為替見通しは、今までの日米金利差だけでなく、米国政治体制が大きな要因になりそうだ。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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