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Monthly Report

Monthly Report 2023年6月号


『日経平均史上最高値への挑戦スタート』

日経平均は5月17日に3万円に乗せ、19日には2021年9月に付けたバブル崩壊後の高値3万0670円を更新、3万0808円と90年8月以来の高値も更新してきた。この勢いで史上最高値89年12月に付けた3万8915円を目指すとの期待も聞こえ始めてきている。
(6月1日、文責太田)

目 次
1、3万円回復にはCTA が主役
2、安倍氏提唱のコーポレートガバナンスと地政学リスク
3、「失われた30年」の象徴、半導体の動き
4、海外投資家を引き寄せる日本経済
5、5月は史上最高値挑戦への起点

3万円回復にはCTA が主役

おそらく、経験の長い投資家は「今度こそ」と思っている人が多いかもしれない。バブル崩壊後30年余り、日本株は何度も偽りの夜明けを経験してきた。強気相場が到来し世界的に注目を集めたかと思えば、いつの間にか静かに勢いを失っていった。今もまた海外からの関心が高まる中で日本株は活況を呈している。たが、今回は本当に変わったのだろうか。バブル崩壊30年、どんな変化が見られたのだろうか。

 4月11日、米資産家のウォーレン・バフェット氏が日本の大手商社株を増やしたことを明らかにして以来、この1カ月半で海外勢の買いが爆発的に増えた。バフェット氏は、日本株を米国以外の国で最大のポジションとし、さらに買い増しするとも発言している。

海外投資家は4月以降、5月3週まで日本株を先物と現物株合わせて440億ドル(約6兆円)を買い越している。2020~22年に累計13兆円以上日本株を売り越してきた海外勢がようやく戻ってきたのだ。そして少シ早いが日経平均株価は89年の大納会に達成された過去最高値を更新するかという見方も市場の一部には出てきた。

 それでは日経平均3万円回復には、一体どんな投資家が日本株を買ったのか。多くの市場関係者が挙げているのはCTAだ。CTAとは英語でCommodity Trading Advisorの略で、直訳すると、商品投資顧問業者となるが、商品先物の取り扱いのみならず、通貨や株式指数先物などといった幅広い金融商品へ投資し、顧客から依頼を受けて預かった金融資産を運用する企業、または運用者のことをいう。

 CTAは相場の流れに追随する「トレンドフォロー(順張り)」戦略をとり、株価が上がれば買い、下がれば売る傾向がある。足元ではCTA主導の環境下で買い上がっているのがわかる。最近の例として、3月10日に破綻に追い込まれたSVB(シリコンバレーバンク)をキッカケとした米株安局面ではCTAは先物を売った。その後反転すると先物を買い進めた。

日経平均の場合、3万円を通過する前後の段階でCTAの動きが活発化するにつれ、株価が上昇したにも関わらず、値下がり銘柄数が多かったり、TOPIX はわずかながら下げていたり、などチグハグな動きが目立った。この段階で容易に日経平均の上げは先物主導というのがわかった。したがって、CTAは短期勝負であるから、近いうちに反対売買で手仕舞うことも容易に想定されるため、株価の修正局面は避けられないとみている。

ただし、一方では5月半ばころから中長期で保有する海外投資家も動きだしており、修正局面があったとしても、それほど深くはないとみている。

安倍氏提唱のコーポレートガバナンスと地政学リスク

この海外勢の買い越しが勢いを増し、日本株の上値拡大の原動力となっているのが、東証のPBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正要求があるのは確かだろう。ただ、22年度は日本企業全体ですでに9兆4000億円の自社株買いがあり、21年度に比べ2割増16年ぶりの過去最高を記録しており、シチズン時計が発行済み株式数の25.6%に相当する規模の自社株買いを実施すると2月に発表するなど、東証のPBR 1倍割れ是正要請以前から変革の前兆があったことに、注意深く日本株を見ている投資家は気が付いていたのだ。

10年ほど前を振り返ってみたい。当時首相だった安倍氏が米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで改革を売り込み、中国の台頭に警鐘を鳴らしていたころ、米国の政治家は連邦債務上限問題を巡って紛糾。株式相場にも影を落とした。安倍氏が地政学的な考え方に与えた影響は長く続いたが、安倍政権下の株高は続かなかった。

アベノミクスによる株価上昇は比較的短期間で終わったが、今回は短期間で終わるような株価上昇ではなく、少なくともそうであってはならないと信じるに足る理由はある。

過去10年間、注意を払っていなかった人々は、安倍氏が提唱したコーポレートガバナンス(企業統治)改革によって、経営の焦点が着実に変化していることを見逃していたのだ。株主還元が重要な課題となり、四半期ごとに大規模な株主還元、いわゆる自社株買いや配当が行われるようになった、その起点は安倍氏が提唱したコーポレートガバナンスにあると考える。今回の東証のPBR1倍割れ是正要求はコーポレートガバナンス改革の流れの一つに過ぎないのだ。

「失われた30年」の象徴、半導体の動き

投資家は再考すべき市場について、それまでの考えを変えるようなストーリーを必要としている。安倍政権下で「アベノミクス」ブームが2016年には失速して以来、中国のような成長市場やハイテクなどのセクターが注目され、日本市場は後れを取ってきた。

 安倍氏は政権末期に外国人投資家のアベノミクス期待外れを呼び戻すのに苦労し、後任の菅前首相は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と東京五輪への対応に追われた。

 市場は当初、菅氏を引き継いだ岸田首相が打ち出した「新しい資本主義」に極めて懐疑的だった。だが、岸田氏の安倍氏から継承した地政学的な視点で日本の注目度が高まり、新型コロナ禍からの立ち直りも岸田政権はうまく進めている。

今回のG7サミットはウクライナのゼレンスキー大統領の電撃参加もあって、大げさかもしれないが歴史に残るサミットとなった。しかし、経済にとっては、そのG7前日の5月18日、米インテル、マイクロンテクノロジー、アプライドマテリアルズ、IBM、ベルギーのimec、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子の7社が岸田首相を訪問したのだ。この7社は世界の半導体を握る7社であって、日本での大型投資や研究開発の強化を要請したものだ。

 日本経済を語るとき、「失われた30年」というフレーズは耳にタコができるほど聞いた。
「失われた30年」の象徴が半導体の分野なのだ。中国が台湾への圧力を強めるなか、米国は台湾への過度な半導体依存を避けるため、新たな拠点として浮上してきたのが日本だ。

 海外投資家の合言葉は、「中国依存を避け、中国に変わる投資先」なのだ。前述のバフェット氏は5月6日開いた彼が経営する米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイ年次株主総会で、台湾への資本投下よりも「日本を好む」と述べた。バークシャーが台湾積体電路製造(TSMC)の持ち分をほぼ全て手放したことについて問われ、「そうでなければいいのだが、それが現実だと思う」とも答えている。

中国を自由主義的な世界秩序に引き入れることは可能という考え方を米国があきらめる中で、日本が再浮上している。文化が大きく異なる日米だが、利害はほぼ一致している。

 米国が中国のデカップリング(切り離し)について語る中、岸田氏は半導体産業への数十億ドルの投資を呼びかけている。日本にとっての最大の利点であり、また今回の株高が恐らく単なる新たな循環的な上昇ではない可能性がある最も大きな理由は、日本は中国とは違うということを海外投資家は深く認識し始めているということだ。その起点は安倍氏の唱える地政学リスクにあるのではないだろうか。

 しかし、たとえ日本株投資の物語が誇張されているとしても、衰退シナリオもまたそうだった。今の株高が定着するかどうかは別として、日本を取り巻く環境は確実に変化している。

海外投資家を引き寄せる日本経済

 円建て日経平均は3万円を超えたが、ドル建てでみた日経平均は220ドルをわずかに上回ったあたりにいる。21年9月の円建て日経平均の高値3万0670円近辺ではドル建て271ドル、その前の高値は21年2月ではドル建て日経平均は279ドルだった。足元では1ドル140円への円安進行でもあって円建て3万1000円台でも直近高値からまだ相当離れているため、海外投資家にとっては「割安、お買い得」なのだ。

国内経済要因を見ても、海外投資家を引き寄せる要因がある。まず、米国や欧州に比べて、インフレ率がそれほど高くはない。また国内では内需の回復を裏付けるデータが相次ぎ、日本株の魅力を高めている。まず内閣府が発表した4月の景気ウォッチャー調査は日本の内需が力強さを増していることを印象付ける結果であった。現状判断DIは54.6へと前月比1.3ポイントの改善を示し、先行き判断DIに至っては55.7へと同1.6ポイント上昇し、双方ともパンデミック発生以降の最高水準に達し、2019年水準を明確に上回った。

また、5月23日に発表されたサービス業PMI(購買担当者景気指数)は前月改定値55.4から56.3と6カ月連続で上昇した(50を上回ると景気拡大、下回ると景気後退)。水準は2007年9月の調査開始以来過去最高で、新規事業、輸出高、受注残高は「記録的な拡大」が認められたという。製造業は50.8となり、前月の49.5から上昇。前月比では3カ月連続の上昇となった。生活必需品の値上がりによって家計の圧迫は続くが、それでも消費者が貯蓄よりも消費を優先している姿が透けて見える。その背景にあるのは賃金上昇率の高まりと、それによる消費者マインドの改善であろう。

1~3月の名目GDPは570兆円と過去最高を更新した。企業での海外の稼ぎも加味した名目国民総所得(GDI)は602兆円と600兆円台に乗せてきている。賃上げによる「所得の増加」は消費を押し上げる。コロナ禍で積みあがっていた貯蓄も動き出している。明らかに国内の経済要因は改善してきている。


5月は史上最高値挑戦への起点

5月19日の日経平均は30808円と90年8月以来の高値を付けた。しかし、89年12月大納会に付けた史上最高値のまだ8割。この間、過去30年間でNYダウは12倍、ドイツDAXは9倍に伸びている。表は90年8月の高値時と今を比較した変化を表にした。なお、データは日経新聞5月20日の記事から抜粋したものだ。

1990年8月2023年5月
時価総額416兆円773兆円
名目GDP468兆円570兆円
ROE7.70%8.55%
PBR3.20倍1.26倍
予想PER39.09倍14.40倍
ドル円144.50円137.50円

最近の日本株はこうした好条件が揃って上昇した。先行きは、米国の景気後退など海外発のダウンサイドリスクに注意は必要だが、国内景気については、賃上げと中国からのインバウンド再開などにも支えられて底堅さを維持するとみられ、投資家の期待を支えることは確実だ。
日経平均は5月に急上昇した反動もあり、明らかに^6月は調整の時期でもあり、短期的には利益確定売りに押されそうだが、それでも3万円台を維持できるのではないか。
長い間、日本株の割安感は続いてきたが、「日本株の再評価」という言葉もバブル崩壊後何度も聞かされてきた。そのたびに投資家(国内外の)は苦杯をなめてきたため、多くの投資家、特に国内投資家は最高値への挑戦にまだ懐疑的だろう。そこまで到達するにはまだ山あり谷ありが続くだろうが、5月の日経平均3万円乗せは、最高値挑戦のスタート月と確信している。 目先の日経平均は1990年6月7日の戻り高値3万3191円50銭を目指す展開だが、これは夏、遅くとも秋相場で達成されるとみている。そして、値固めをしながら、その後は89年12月29日に付けた3万8915円がターゲットになってくる。「失われた30年」の間に中国は目覚ましく経済発展を遂げた。その間日本は低迷を続けたのだが、30年後、今度は日本が発展を続けるとみたほうがいいい。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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