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Monthly Report

Monthly Report 2021年5月号

『日本株の浮上はいつになるか』

NYダウは4月16日に34200ドルを付け史上最高値を更新、ナスダックも4月26日に最高値を更新した。他方、日経平均は2月16日の3万0714円はおろか節目の3万を回復できずに4月を終えた。
(5月1日 文責 太田)

目 次
1、日米株価格差が目立ち始めた
2、急速な回復の米経済活動
3、過熱感まだない米製造業
4、ワクチン接種率30%がポイント
5、米株式市場の最大のリスクはテーパリング
6、なぜテーパリング開始への警戒感が強いのか
7、もはや「安全資産」としての円の評価は後退している
8、官の劣化で「後進国」になりつつある日本
9、コロナで新たな変革期

日米株価格差が目立ち始めた

NYダウが上昇しても、日経平均は上昇せず燻ったままという日が4月になると多く見られた。
この日米の株価格差は一体どこにあるのだろうか。まず、米株だが、株価上昇の背景は何といっても米経済活動の急激な持ち直しだ。
1人当たり1400ドルの給付金を柱とする総額1兆9000億ドルの景気対策効果が発揮されたところに、コロナ感染状況の好転が重なった。
さらにバイデン大統領は4月28日、就任以来、初めての議会演説で、1.8兆ドルの「米家族計画」で育児支援を発表した。

バイデン大統領は4月21日の会見で就任100日(4月29日)までに新型コロナワクチンの国内での2億回分の接種を前倒しで達成できる見通しだと発表した。
米国では接種が急速に進んでいて、CDC(疾病対策センター)によると4月21日の時点で、少なくとも1回の接種を受けた人の割合は65歳以上で80.6%、18歳以上でも51.5%となっている。

一方、日本では3月の金融政策決定会合で、日銀がETF(上場投資信託)買い入れを実質的に減額したことも株価低迷の一因だが、やはり根本的な理由は国内経済、すなわちワクチン接種の遅れに対する不安だろう。それが日米の株価パフォーマンスの格差としてはっきりと表れている。

急速な回復の米経済活動

米国経済を見ていると3月以降、コロナ感染状況の好転とワクチン接種の進展を受けて経済活動は急速に息を吹き返し、最近はこれまで新型コロナの打撃が集中していた飲食店や旅行の需要も回復に転じている。

労働集約型産業の典型である飲食店や宿泊業は、客足の回復が雇用増加に結びつきやすいという特徴があるからだ。
飲食店など接客業の雇用者数は新型コロナによるパンデミック(世界的大流行)発生前の2020年1月時点で全体の11%を占めていた。
したがって、この先数カ月の雇用情勢は大幅な改善が期待される。3月時点で6.0%まで低下していた失業率は、一段と低下する可能性が高い。

そうしたなか、一足先に回復のプロセスに入った製造業は目を見張る強さを示している。
4月1日に発表された3月のISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況感指数は64.7と1983年来の高水準に到達した(好不況の分かれ目は50)。
ISMの60超えは、2000年以降で2004年と2018年しか経験したことのない水準であるから、この異常値とも言うべき数値は目下の回復ペースがいかに力強いかを物語っている。なお、このレポートが出た直後の5月3日には4月のISMが発表される。

過熱感まだない米製造業

過去にISMが60に到達した局面は、仕入れ価格が高騰したり、納期が延びたり、受注残高が積み上がるといった事象が発生し、生産が“これ以上ないくらい”に活況を呈する状態であった。
そのため、ISM60到達は景気が「天井」にぶつかったサインと認識されており、株価もISM60到達でピークアウトすることが多かった。
ISM64.7という数値から想起されるのは工場フル稼働の状態だが、足元の米鉱工業生産指数に目を向けると、実のところコロナパンデミック発生前の水準を明確に下回っている。
また設備稼働率にも余裕がある。コロナパンデミック発生前の2020年1月に75.2%だった設備稼働率はパンデミックスタート時点の2020年4月に60.1%まで低下した後、上昇傾向をたどっているが、今年の3月時点で74.4%にすぎない。前回ISMが60に到達した2018年後半の設備稼働率は77%程度であったから、生産設備の稼働状況は大きく異なりまだ余裕がある。

今後生産が回復基調を維持すれば、生産能力増強のための設備投資が増加し、その結果、日本からの資本財輸出が拡大することになる。
米国の製造業は復活過程だが、まだ設備投資に火がつく状況にはない。
米国の設備投資動向と日本の輸出が密接な関係を持つことから、米国経済回復は日本の製造業にも恩恵をもたらすことになる。

足元の国内の製造業については、海外経済の回復によって輸出の増加が期待される。
米国に加え、コロナショックからいち早く立ち直った中国も回復が持続する可能性が高い。

ワクチン接種率30%がポイント

問題は個人消費だ。圧倒的に重要なのはワクチン接種の進捗だ。
菅義偉首相は「希望する高齢者に対し、7月末までを念頭に2回の接種を終えられるよう取り組む」としている。

ワクチン接種が政府の思惑どおりに進むかは、今までの成行きからも極めて不透明感が強い。
とはいえ、高齢者のワクチン接種にメドがつくと期待される7月ごろが1つの転換点になることは間違いない。
65歳以上人口(高齢化率)が16%程度のアメリカでは、人口100人当たりのワクチン接種が20人に到達した頃、高齢者のワクチン接種にメドがつき、全体としてコロナ感染状況が沈静化に向かい、経済活動正常化が進んだ経緯があるからだ。

米国において、年初から新型コロナワクチン接種ペースは着実に高まっており、1回目のワクチン接種者の比率は36.1%まで高まっている(4月12日時点、完全接種は22%)。
ジョンソン&ジョンソン社によるワクチンが接種を一時中止されるニュースもあったが、他社が供給しているワクチンによって現行の供給計画は補えるようだ。

日本の高齢化率は28%とアメリカと比べると10%ポイント以上も高いため、アメリカほど鋭い回復は難しいかもしれないが、ワクチン接種率30%を1つのポイントとして認識しておきたい。
ワクチン接種が政府の思惑どおりに進めば、日本株も米株に対する遅れを取り戻せるのではないか。
また、英イングランド公衆衛生局が「ワクチン接種は1回でも家庭内感染を最大で半減させる」とのデータを発表した。
ある程度(3割程度か、日本の株式市場でも今後3割の接種率は重要な意味を持つと思っている)接種が普及すると抑制効果が高まって来るとの見方もある。

むろん、米国とは医療体制の違いもあり単純比較はできないが、日本でも高齢者のワクチン接種進展に伴い、医療体制の逼迫感が和らぎ、対面サービス業の再開が可能になるような展開が期待される。

菅首相が言うように、7月末までに高齢者に対し、2回の接種が終えることが可能なら、その流れが見えた段階で株価は上昇始めるだろう。
ワクチン接種が政府の思惑どおりに進めば、日本株も米株に対する遅れを取り戻せるのではないか。

米株式市場の最大のリスクはテーパリング

当面の米株式市場にとっての最大のリスク要因はFRBのテーパリング(資産購入金額の縮小、つまり金融緩和の縮小)だろう。
米国のテーパリング当然日本株にもある程度のリスクになる。
最近の米株高要因は、米国経済の回復が続く中で発表される企業決算が上振れるとの期待が高まったことにある。
すでに4月半ばから米企業の決算発表が始まっているが、ほぼ想定どおりの好調な決算が示されるとみられる。
ただ、この決算は、もはや株価にとって賞味期限を迎えつつあり、利益確定売りで目先は米株がやや調整するかもしれない。
もっとも、仮に利益確定売りがあっても株安は長期化しないとみている。
3月には第3弾の現金給付が幅広く配布されたことも後押しして、サービス部門の経済活動の正常化が進み、春先から夏場にかけてアメリカ経済は再加速する段階に入るとみられる。

こうした状況を受けて、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は4月11日のテレビ番組に出演して、経済状態が「変曲点」(inflection point)にあるとの認識を示した。
FRBも、経済活動の再加速が始まったことを、強く認識しているということである。
パウエル議長の「変曲点」との発言は、新型コロナ対応で続けてきた強力な金融緩和政策を足元の経済状況の回復で見直す地ならしを始めた、と市場では解釈しているようだ。

なぜテーパリング開始への警戒感が強いのか

バブルとの声が聞かれる米株市場のリスクとして、FRBのテーパリング開始は相当意識されている。
2013年5月のベン・バーナンキ議長時代の、いわゆる「テーパリング騒動」の記憶が新しいことも、市場の警戒感を強めている。金融緩和によって株式市場で「バブルが人為的に作られた」と思い込んでいる市場関係者ほど、テーパリングを強く警戒していると思われる。

ただ、2013年の時にはFRBのテーパリング開始への思惑で長期金利は上昇したが、米国の株式市場は高値圏でのレンジ推移に移行しただけで、株安への転換を招いたわけではない。
当時もそうであるが、FRBの資産購入の調整が経済活動の復調に応じて適切に行われるのであれば、それは株式市場の大きな混乱を招かない。
パウエル議長率いるFRBも、テーパリングが金融市場に及ぼす影響には配慮するため、市場とのコミュニケーションを慎重に進めると筆者は予想している。

現時点では、パウエル議長などは「資産購入見直しの議論は時期尚早」と述べるにとどめており、テーパリング開始の具体的な基準は明確ではないことが、市場の疑念を高めていることも事実だ。
ただ、今後、大幅な雇用増加あるいは感染症リスク緩和を示すワクチン接種率、などの具体的な条件を金融市場に示しながら、2021年末までにFRBの中でじっくりとテーパリング開始を検討していくだろう。

金融市場では、2022年早々のテーパリング開始がコンセンサスとなりつつある。
2021年にアメリカ経済の成長率は1980年代以来の高い伸びに高まると想定しているが、これまで挙げた要因を踏まえると、FRBのテーパリング開始は長期金利の上昇を警戒しながら2022年央まで後ずれする可能性もある。

もはや「安全資産」としての円の評価は後退している

さて、日本株にとって円相場は重要なファクターだが、足元での為替と株価の相関性が以前ほどではないように感じる。
大方の為替ストラテジストは今後も円高ドル安(1ドル100円割れを言うストラテジストが多かった)と見ていたが、筆者は円安と見ていた。
節目は今年1月だったかもしれない。
それまでは新型コロナ危機を受けた米FRBの金融緩和を背景にドル安基調が続いていたが、今年に入ってドル高へと流れが変わった(NY時間4月30日現在、1ドル109円台前半)。

背景には、ワクチン接種の進展に加え、1.9兆ドルの追加経済対策などバイデン政権による積極的な財政支出でアメリカの景気回復期待が高まったことがある。
一方、欧州や日本の経済はまだ沈んだままの状況だ。

3月にかけて急速に進んだ米国の長期金利上昇とドル高はやや過剰反応だとしても、中期的にみたドル高は徐々に進んでいくと見ている。
注目すべきは、コロナ危機下で米国がいくら金融緩和をしても、米長期金利がいくら下がっても、かつてのように1ドル100円を割り込む円高にはならなかったことだ。
その背景には、円が持っていた「安全資産」としての性格が忘れられつつあるという印象がある。
中期的な流れとしては、市場は次第に「安全資産」としての円の評価を変え、円安ドル高に傾いていくと思う。
個人的には今年年末に1ドル110~115円。来年以降もドル高円安の基調が続く可能性が高まっているだろう。

官の劣化で「後進国」になりつつある日本

今回のコロナ禍で思ったことは、日本はいつの間にか「後進国」に転落したのだろうかという点だ。
肝心のワクチンの開発国にはなれず、接種率も先進国では最低(世界で100番目ともいわれている)。
また、「デジタル後進国」でもある(感染者の接触確認アプリの機能不全を役所は見逃していた)。

コロナ禍で指導力が評価されたのは、メルケル独首相やニュージーランド首相、台湾の総統。いずれも女性だ。
日本は「世界第120位のジェンダー後進国」らしい。その他にも原発事故を経験しながら再生可能エネルギー開発は欧州や中国に大差を付けられている。
アベノマスクなどは無駄な財政支出であり、「財政の質」も劣化してきた。
日本がこうした「後進国」に転落した背景には、明らかに責任も取らず、想像力も欠く政治と行政の劣化にある。

コロナで新たな変革期

コロナ禍で、世界は100年に一度の大変革期を迎えようとしている。
2世紀前にインドで発生したコレラで、世界の中心がアジアから(当時は中国とインドで世界のGDPの約50%を占めていた)欧州に移り、1世紀前のスペイン風邪の流行を境に欧州から米国に移り、新産業が勃興し米国文化が開花した。
おそらく今後は、米国、中国、欧州、日本の4極で世界秩序が形成され、新企業群が誕生するだろう。
日本でもデジタルとグリーン革命で新たなビジネスモデルが生まれてくることは間違いない。
おそらく民間が官の劣化を補い資本主義を鍛え直し、米中覇権争いの最中に「先進国」への復帰を目指すことになるだろう。
日本株の目先浮上は7月以降と見るが、日経平均が3万円を完全に抜けて本格的な上昇過程に入るのは、まだ先のようだ。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するものではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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