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Monthly Report

Monthly Report 2022年3月号

『ウクライナ危機の後は米利上げ』

24日ロシアは陸海空からウクライナに一斉に侵攻した。市場は侵攻前から変調をきたしていたが、実際の侵攻のニュースでいくらか持ち直した。市場はウクライナ危機一色で、米利上げの話題は一時的にも棚上げ状態になっている。(2月28日 文責太田)

目 次
1、ロシアのSWIFT排除、その影響

2、民主主義国家の専制主義国家への対応

3、3月の重要イベント、米利上げ

4、利上げの積み重ねは景気と金融情勢の悪化を招く

5、なぜ株価は軍事侵攻後すぐに戻しに転じたのか

6、中小型株が示唆する底入れ

7、日本でも小型株が底堅い動き、例外はマザーズ

ロシアのSWIFT排除、その影響

 2月27日日本時間日曜日の朝7時ころ重要なニュースが入ってきた。26日 米国、英国、欧州、カナダは、ロシアの一部銀行を国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することで合意したというニュースだった。ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの新たな制裁措置の一環であり、制裁にはロシア中央銀行の外貨準備に関する規制も含まれ、数日中に実行すると報道された。
報道では、欧米諸国による追加制裁について、プーチン大統領がロシア中央銀行の外貨準備6300億ドルをウクライナ侵攻や通貨ルーブル防衛の資金に使うことを阻止するのが目的だと明らかにした。このことは、プーチン政権が国際金融システムから排除されることを意味する。
このSWIFTに関してはWeekly2月28日号でも説明しているが、経済制裁の最終的切り札ともいわれているほど、ロシアに対しダメージを与えることが想定される。改めてここで説明すると、SWIFTとは「Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication」の略で、国境を越えた迅速な決済を可能にし、国際貿易を円滑に行うためのシステム。このシステムに接続する銀行は、SWIFTメッセージを利用して支払いを行える。同メッセージは安全とされ、大量の取引を迅速に処理できる。SWIFTは国際貿易における資金送金の標準的な手段となっており、ロシアの銀行がSWIFTから排除されると、同国は世界中の金融市場へのアクセスが制限される。ロシアの企業や個人は、輸入品の支払いや輸出品の受け取り、海外での借り入れや投資が難しくなる。
しかし、ロシアは他の決済チャネルを利用できる。その場合、制裁を科していない国の銀行を経由して支払いを行うことになるが、代替手段は効率性や安全性が低い可能性が高く、取引量の減少やコスト上昇の可能性がある。
ロシアが被る影響は甚大だが、他の国への影響はどうか。輸出企業にとっては、ロシアへの商品販売のリスクとコストが増加する。ロシアは製造業製品の大口購入国で、世界銀行のデータによると、オランダとドイツはロシアにとって2番目と3番目の貿易相手国。ロシア製品の買い手もより困難に直面し、代替サプライヤーの模索を迫られる。ただ、ロシア産の石油とガスについては、代替供給国を見つけることが難しいとみられる。貿易相手国もそれなりのダメージを受けることになるが、ロシアのSWIFT排除は欧州の覚悟ともとれる。
SWIFT発表前の25日のシカゴ日経平均先物は大証比480円高だった。発表後最初の市場は東京市場、28日の日経平均の引けは50円高、おそらく東京ではSWIFTの影響は消化難だったようだ。その後の欧米の株式市場は下げた。ただ、ナスダックはリスク回避の米債券買いで米金利低下したため、プラスで引けた。しばらくは、その影響を織り込むために上下にぶれるかもしれない。

民主主義国家の専制主義国家への対応

 ウクライナ情勢は、ついにロシアの軍事侵攻という最悪の展開へと進んだ。多くの人命が失われており、さらに失われるかもしれない。ウクライナをめぐる情勢については、安全保障面や今後の国際政治に与える影響など、今後も議論が進んでいくと思っている。ただ、筆者はそうした分野における見識が、専門家に比べて圧倒的に乏しいため、守備範囲である市場分析について語ることにしたい。
しかし、敢えて言わせてもらえるなら、プーチン大統領は核攻撃も辞さないことを明言しており、この先は、それを前提とした「新たな種類の戦争」の可能性があることを意識すべきだろう。バイデン大統領の言う「民主主義国家」は、「専制主義国家」に対して、もっと早く一致団結して毅然たる態度で臨むべきだったように思われる。また、バイデン大統領が軍事的には対抗しないことを早くから明確にしたことが、ロシアの軍事侵攻を招いたと言える。さらにはその姿勢を中国は見ており、台湾問題にも影響を与えることは容易に想像できる。この先、欧米諸国は、中国が台湾に侵攻した場合に備えて、ロシアのSWIFT排除をはじめとする経済制裁の効果を見極めておく必要がある。習近平主席は欧米の対応をじっと見ているはずだ。

3月の重要イベント、米利上げ

 さて、3月の重要なイベントは15~16日に開催される米FOMCでの利上げにある。ロシアのウクライナ侵攻で、市場の関心が一時的に薄れていたが、今回の会合で利上げが開始されることは、ほぼ確実な情勢である。市場の関心は、最初の一手が通常の0.25%なのか、それとも0.5%なのかで、どちらを織り込むのかで金利市場は日々揺らぐだろう。
実際の金融市場調節の実行部隊であるウィリアムズNY連銀総裁は2月18日の講演で3月のFOMCでの利上げは適切だと述べた。その上で同総裁は利上げの幅に関して「最初から大きな一歩を踏み出すことへの説得力のある議論はない」と述べて、0.5%論に否定的な立場をとった。「着実に金利を引き上げて再評価していく」、すなわち0.25%の小刻みな利上げを重ねながら経済・金融情勢の変化を見極めて、その後の利上げペースを調整していくという考え方は、ウクライナ情勢を含めて不確実性が高い中では、合理的である。

利上げの積み重ねは景気と金融情勢の悪化を招く

 その場合、2回目以降の利上げについて、0.5%になる可能性、さらには0.75%や1%になる可能性さえも、市場は部分的に織り込みにいくだろう。したがって、金融市場は不安定化しやすいといえる。
いくらかバブル的に米株式などの資産価格が大きく膨らんでしまっている今の状況下、たとえ毎回0.25%ずつであっても利上げを重ねていくと、景気及び金融情勢の大幅な悪化が遅かれ早かれ到来することになる。その場合の処方せんは高い確率で、利下げへの転換である。そうした 米景気に楽観的な見解にクギをさすかのようにサンフランシスコ連銀は7日に「アメリカの経済は現在、完全雇用に達していない」といった趣旨のレポートを発表した。労働参加率と就業率がパンデミック発生前のトレンドを大幅に下回ったままであるとの説明だ。失業率がパンデミック発生前の水準に達しているのに対し、労働市場から退出した人は多く、雇用者数の水準が元に戻っていないことを取り上げ、それらが本来のトレンド値に達するのは2024年になると結論付けている。失業率の低下は労働市場の回復を誇張しているため、それをもって金融引き締めをすべきでないとの意味を含んでいるのではないか。
これは、ひょっとして将来的に金融引き締めの度合いを緩めるための伏線かもしれない。今年、年央にかけてインフレ率が落ち着く気配をみせると、過度な金融引き締めに警鐘を鳴らすFRB高官が出現し、流れが変わるかもしれない。


なぜ株価は軍事侵攻後すぐに戻しに転じたのか

 主要国の株価は、2月24日の日本市場の後場から同日の米市場は午前中にかけて、ロシアの軍事侵攻の報道を受けて下落した。だが、米市場では、そこから株価は戻しはじめた。なぜ、ロシア侵攻が始まったら株価が戻り始めたのか。
こうした株価の動きは、投資家は「ロシアが軍事侵攻する可能性はゼロに決まっている」と信じてはいなかったためだと考えられる。つまり、2月中旬以降の日米の株価が軟調だった背景には、「ロシアの軍事侵攻の可能性は100%ではないが、かなり高いため警戒」といった心理があり、すでにいくらか最悪の事態を織り込みにかかっていたと解釈できる。
現実に軍事侵攻という最悪の形で事態が動き始め、それが24日まで一時的に日米などの株価を押し下げた。だが、実際の侵攻で今さら投資家の大半が驚愕して投げ売りし、直近値から何割も株価が下落するような材料ではないと市場は解釈したのだろう。下げが一巡すれば株価は戻りに転じた。
したがって、今後は短期的にはウクライナ情勢で市場は動揺を見せるかもしれないが、中長期的には主要国の株価を大きく押し下げ続ける、という展開は予想していない。例えば、前述したSWIFT(国際銀行間通信協会)から、ロシアの銀行の一部を排除すると表明、27日には日本も参加することを岸田文雄首相が表明した。SWIFT排除の制裁による影響が、どの国の経済やどの国の企業に、どの程度の悪影響を及ぼすかは、極めて見通しがたい。このため、投資家の間に種々の思惑が広がり、主要国の株式市況は短期的に上にも下にも大きく振れ続けるものと懸念する。

中小型株が示唆する底入れ

 このように、今後も株価の短期変動は激しいものであり続け、投資家は方向感を失うかもしれない。そして、前述のように「ウクライナ情勢に限っては」総じて最悪の事態を市場がかなり織り込んだと考えているが、ウクライナ情勢以外の要因で、例えば、前述した3月のFOMCで市場が想定する0.25%の利上げより大幅な利上げなどがあれば、3月の主要国の株価はまだひと押しするだろうと予想している。その後は、株価は長期上昇基調に戻るのではないだろうか。株価のもう一段の下落、あるいは底打ちから反転上昇への流れを見るため、注目すべきは米国の中小型株指数である「ラッセル2000」がある。
昨年からの米FRBの金融政策の影響が中小型株に影響を与えてきた。長い期間、超金融緩和状態が持続したため、低金利や金余りを背景に、投資家が株式などのリスク資産をあれもこれも買っていた。ところが、昨年11月からテーパリング(量的緩和の縮小)が開始されたため、投資家があれもこれも買いまくるという投資スタンスを維持することに疑義を生じ、「あれかこれか」の選別を始めたと推察される。
ラッセル2000と米国の代表的な株価指数であるS&P500の動きを比較すると、昨年11月初旬までは両者に大きな差がなかったが、それ以降、昨年末までS&P500が堅調に推移したにもかかわらず、ラッセル2000は大きく崩れ始めた。さらに今年に入ると、両指数とも軟調展開に陥った。
中小型株は、一般的に長期的に利益の高成長が見込めるという投資魅力があるが、事業の安定性という点でリスクも高い。このため11月ころから、投資家はリスクの高い中小型株を避け、成長性に欠けるが安定性の高いS&P500採用の大型株へと資金を移したのだろう。
さらに12月から連銀がテーパリングを加速し、近い将来の利上げまで示唆し始めたため、リスク回避的な投資家の姿勢も一段と進み、あれもこれも売るようになって、今年初からは大型株も中小型株も売却を始めて、債券や現金に資金を移したと推察する。こうした投資家の行動が、株式市況全般の下落を進めたと解釈している。
そうした推移を経た米国の株式市況において、1月27日を底として、ラッセル2000が底固さを示している。終値ベースでは、S&P500は2月23日に年初来安値を更新したものの、ラッセル2000はその1月の安値を割り込んでない。
ラッセル2000が示してきた中小型株の動きが、下落局面において全体相場の軟調展開入りの先行指標だったとすれば、上昇局面でも同様に先行指標である可能性はあるだろう。
つまり、株式市況全体を見ると、まだ不透明感が強く下押しが想定されるが、投資家の行動には徐々に「リスクを回避するよりも長期成長性に投資しよう」という姿勢がにじみ出ているのではないだろうか。米国の株価について、ウクライナ危機を織り込む3月頃と想定する最安値形成以降に上昇基調入りする可能性が、この中小型株の動きに示唆されていると考える。

日本でも小型株が底堅い動き、例外はマザーズ

 一方、日本ではどうだろうか。TOPIX(東証株価指数)の中に、大型株指数、中型株指数、小型株指数)がある。そのうち大型株指数と小型株指数の動向を見ると、大型株指数は2月10日にピークアウトした形で、全体相場は大型株中心に軟調展開を推移している。小型株指数はラッセル2000と符合する1月27日に最安値をつけて、その後は底固い。
こうした動きからは、やはり日本でも、中長期的な株価の上昇基調入りはまだ早いが、それほど遠いことでもないと見込まれる。ただ、こうした日米の中小型株に明るい兆しが見える中で、例外的に下落基調を続けているものがある。東証マザーズ指数だ。マザーズについては、なかなか明確な底入れが見いだせない。マザーズ指数の不振の背景としては、2点ほどの指摘をさまざまな機関投資家から聞く。
1つは、不正会計などの企業スキャンダルが多く、「まっとうな企業がほとんどだ」と信じたいものの、投資家がマザーズ市場全体に疑念を抱いているという意見だ。
もう1つは、PER(株価収益率)などの投資尺度が割高すぎるという声だ。2月25日時点で、ファクトセット調べによる先行き12カ月間の企業収益予想値のアナリスト平均を用いると、TOPIXの予想PERが12.8倍にとどまるのに対し、マザーズ指数はなお79.4倍にも達している。金利上昇局面において高PERはよっぽど高い成長力を示さなければ、売られることになる。世界的に中小型株指数が堅調さを見せ始める中で、マザーズ市場はしばらく例外であり続けるのかもしれない。
株式市況全体を見ると、まだ不透明感が強く下押しが想定されるが、投資家の行動には徐々に「リスクを回避するよりも長期成長株に投資しよう」という姿勢が徐々にではあるが、見え始めてくるのではないだろうか。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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