『足元の株価調整と過去のバブル考察』
米株は27日、29日の2日間で11月の大統領選後、最大の下落となった。
ゲームストップ株などの暴騰株波乱によるヘッジファンドポジション調整が主因と見られ、「バブルの芽」と見られた部分に下落が広がり、全体相場に波及した。
(2月1日 文責太田)
目 次
1、ゲームストップで波乱の展開
2、21世紀2度の米国発バブル
3、日本のバブルの実態
4、ゲームストップ株で調整終了?
5、コロナショックの「倍返し」は3万2000円
6、いよいよTOPIXが巻き返す?
7、押し目買いに出てくる機関投資家
ゲームストップで波乱の展開
ゲームストップはテレビゲームの小売店チェーン。
オンライン販売に押され、業績不振銘柄として、大量の空売りを飲み込んでいた。
昨夏に4ドル台で低迷していた株価が年初から急騰、一時323ドルと80倍、直近1週間で700%の上昇率であった。
オンライン掲示板「ウォールストリートベッツ」を利用する個人トレーダーが大量のコールオプションを買い、売り方のヘッジファンドが窮地に追い込まれ、踏み上げ相場を余儀なくされる展開となっていた。
ゲームストップ株だけでなく、映画館大手AMCエンターテインメント株などに広がっていた。
窮地のヘッジファンドが手持ちポジションを売らざるを得なくなり、大幅調整相場になったと見られる。
ブルームバーグによると「空売り筋は個人投資家軍団から歴史的な総攻撃を受けている」とのこと。
ゲームストップ株などの波乱は終わったのではなそうだが、昔風に言えば「低位ボロ株仕手相場」。
個人投資家層にコアがある訳ではなさそうで、移ろいやすい。
ゲームストップ株は投資家が集まるSNSサイト「ウォールストリートベッツ」の一時非公開化で急落。
再開後も乱高下している様だ。SNSサイトは「レディット」で、そのチャットルームが「ウォールストリートベッツ」と名付けられている。
急騰していた銘柄を空売りする投資家も交錯し、目まぐるしい展開が続きそうだ。
21世紀2度の米国発バブル
今回のゲームストップの株価波乱劇の直前まで、日米等主要国の株価は、経済実態に比べると、買われすぎであると言われていた。
一部には「バブル」ではないかという声も聴かれたが、筆者は「バブル」だとはまったく考えていない。
なぜかと言えば、「バブル」だと唱えている人が多いからだ。
21世紀になって、米国は2度のバブルとその崩壊を経験している。
最初は21世紀早々に起こった「インターネット・バブル」、2度目は「サブプライムローンバブル」、いわゆる不動産担保証券市場のバブル、このバブルの崩壊を「リーマンショック」と呼んでいる。
米国では「インターネットバブル」は崩壊直前に、インターネットとは関係のない企業までドット・コムやドット・ネット、インターネットといった、いかにも関連がありそうな呼称に社名を変更する企業が目立っていた。
社名変更の株価は変更直後に10日間で倍になった企業もあった。
このバブルのもうひとつの特徴は、未曽有の新規公開株(IPO)のブームであった。
バブルがはじけたのは2000年の第1四半期だが、その直前の四半期に159件のIPOが成功裏に行われたのだ。
そして、このバブルの崩壊後、インターネット企業の優良銘柄だったシスコシステムも株式時価総額の90%以上を失ってしまった。
当然なことに、当時予想されていた利益成長は実現しなかった。
おそらく殆どのインターネット企業とまったく無関係な企業は現在市場に残ってはないだろう。
2020年も米国のIPOは非常に活発で216件、前年比36%増。
調達金額は781憶ドル(約8兆円)、前年比68%増。この辺りもインターネットバブル時代に似ている。
もうひとつの「サブプライムローンバブル」は2008年に終わりを告げたが、最初に住宅抵当ローンを供与した金融機関は通常バランスシート上で資産として計上するが、数日後には投資銀行に転売、今度はこれを担保に債券を発行する。
当時もてはやされた金融工学(ファイナンシャルエンジニアリング)によるテクニックによるものだったのだ。
こうして考案されたのがSIV(仕組み金融)だ。このSIVは簿外扱いだったので、当局が気付いたときは膨大に膨らんでいたのだ。
住宅価格も21世紀の最初の10年でほぼ倍になっていた。
インターネットバブルより、このバブルの崩壊は金融機関に深刻な打撃を与えたのだ。
1月末の米株価の調整の原因となったゲームストップは、昨夏から新年まで80倍に株価が上昇した後の調整だが、そもそもゲームストップはほとんど利益を出していなかった。
同様に利益を出していない企業が個人投機家にSNSを通じて持ち上げられる様子は「インターネットバブル」のときを思い出す。
日本のバブルの実態
これまで米国で発生したバブルを紹介してきたが、バブルは何も米国の専売特許ではない。
日本でも株価と地価をめぐるバブルが発生し、そして崩壊していった。
地価は1955年から90年までに75倍に高騰し、90年の地価の総額は20兆ドルと推計された。
これは世界の富の20%、世界中の当時の株式時価総額の2倍、米国全体の地価の2倍ともいわれていた。
そして皇居とその周り土地の評価額だけでカリフォニア州全体を買うことが出来るとよく言われていた。
日本の株価は1955年から90年にかけ100倍になっていたのである。
89年当時の日本の株価時価総額は米国の1.5倍の4兆ドル、世界の時価総額の45%を占めていた。
株価指標も当時のPER(株価収益率)は60倍(現在25倍)、PBR(純資産倍率)は5倍(現在1.2倍)。
90年になって金利の上昇から株価の逆回転が始まり30年にわたって株価は低迷、そして今日経平均3万円という見方がやっと出始めたばかりだった。
過去のバブルを見て、それが弾けた後は、必ず実体経済に深刻なダメージを与える。
米国の「インターネットバブル」「住宅バブル」、日本の「地価と株価のバブル」などから我々が学ぶべき教訓は、市場は時には不合理な動きに支配されることがあるが、時間をかけ、多くの犠牲が膨らむものの、非合理なゆがみを修正していくものだ。
しばしば説明のつかない価格形成が生まれ、根拠のない楽観論がはびこり、無知な個人投資家が巻き込まれることがある。
しかし、やがて市場は本来の価値に収斂していくものだ。
前述したように、今の日米株価はまだバブってはいない。
「バブル」と唱える人が多いからだ。
80年代の日本のバブルを経験したものとして、本当にバブルに陥るのは、日本で1989年末の高値を形成したときのように、ほとんどの人が「これはバブルだ」と言わないどころか、バブルという言葉が頭をよぎることすらなかったときだろう。
それどころか、そのときの途方もない高値が実体経済や企業収益と比べていかに妥当か、という「珍説」が、自信をもって叫ばれたときこそがバブルだ。
日本のバブル期に、バブルを正当化するため今ではその理屈の意味すら覚えていないが、地価と株価の関係を扱ったQレシオなるものが現れた。
確か東大の経済学者が発表し、証券会社がこぞって使った覚えがある。
現状ではこうした珍説も今のところ出ていないのは幸いだ。
ゲームストップ株で調整終了?
つまり、現状については、たとえば日米のPER(株価収益率)が50倍や100倍になったわけでもなく、株価が上がったことや株価水準そのものは特に問題視するには当たらないと考える。
それでも、昨年11月以降の株価の上昇スピードが、足元の景気や企業収益のもたつきに比べると速すぎる。
そのため、短期的(むこう1~2カ月程度)には、主な株価指数は1割程度下落すると当初考えていた。
ところが今回ゲームストップ株がもたらした世界の市場全体の調整が起き、それほど遠くないうちに調整は終了すると考えている。
1割前後の下落であれば、株式市場では日常茶飯事のことだ。
足元の調整が終了した後は、実体経済の回復が緩やかであるため、景気支持的な財政政策や金融政策が維持される状況は変わらないだろう。
つまり、いわゆるゴルディロックス相場(ほどほどの景気回復を享受する株価上昇)が続くと考えている。
コロナショックの「倍返し」は3万2000円
2020年はコロナ禍が作り出した需給相場だった、この構造が変わらなければ、2021年も上昇が続くと考えられる。
筆者は、日経平均3万円説でなく、コロナショックの「倍返し」の水準がメドとなる日経平均株価3万2000円前後を2021年末の目標に設定変更した。
倍返しとは、コロナ前の高値2万4115円とコロナショックの安値1万6358円の差である7757円を2倍にして、安値の1万6358円に足した値だ。
3万1872円となり、3万2000円に近づく。
当然、コロナの収束の時期と景気回復の時期によって、その日柄(経過日数)と値頃感は違って来るだろう。
ただし、その結果については逆指数的に考える。つまりコロナの収束は人類にとっては朗報だが、株価にとっては現局面の終わりを意味する。
景気回復についてもコロナと同様の考えだ。
ただ、コロナはすぐにただの風邪になるとは到底考えられず、景気もコロナショック後の急回復は限定的で、2021年中の相場終了はないと思っている。
いよいよTOPIXが巻き返す?
29年ぶりの高値まで戻った日経平均株価の2021年目標をコロナショックの倍返しとしたのは、簡単に言えばチャートの明確な節目が1989年の史上最高値までないからだ。
しかしTOPIX(東証株価指数)にはそれがある。2018年1月の戻り高値1911ポイントだ。
TOPIXには日本を代表する重厚長大銘柄が多い。
このところ内部インフラのDX(デジタルトランスフォーメーション)化で稼ぐ力がついて来た化学、機械、鉄鋼などのオールドエコノミー銘柄の復活が目立ち始めた。
TOPIXが18年1月の高値を3年ぶりに抜くと、上値の重しが一気に外れ、2000ポイント以上に進む可能性もあると見る。
現在、NT倍率(日経平均÷TOPIX)は15倍超。
TOPIX2000ポイントで15倍のNT倍率なら日経平均は3万円になる。
しかし、日経平均が3万円達成したら、このレベルは少なくとも通過点になるだろう。
ひとつ気がかりなのは、米長期金利の動向だ。景気や企業収益の回復が盤石となれば、金融財政政策は出口を探ることになりそうだが、それは今年ではなく、主として2022年の市場波乱のテーマとなるだろう。
押し目買いに出てくる機関投資家
1月の最終週、日経平均は1週間でほぼ1000円の下落だった。
米市場の混乱かへの警戒感から多くの機関投資家は売買を控えている。
ただ、市場参加者が皆日本株を減らしているのではなく、急落リスクが高まっているわけでもない。
現時点でパウエル米FRB議長が金融緩和の出口論を封印し、相場を下支えする構図はしばらく続くという共通認識がある。
機関投資家はおそらく下がれば押し目買いを入れてくるだろう。
市場は上値追いから転換し、過熱感のない落ち着きどころを探る局面に入ってきたようだ。
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■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。